制度・学術
児発・放デイ多機能型の収支構造 — 1拠点・定員10+10で年商どこまで届くか
児童発達支援(児発)と放課後等デイサービス(放デイ)を1拠点で同時運営する多機能型事業所の収支構造を、令和6年度報酬改定後の単価・稼働率パターン・人件費・固定費の実数で分解。年商・営業利益の現実的レンジと、稼働率閾値・損益分岐点を経営者目線で整理。
児童発達支援(以下「児発」)と放課後等デイサービス(以下「放デイ」)を1拠点で併設する多機能型は、開業を検討する事業者にとって最も標準的なフォーマットになりつつあります。理由はシンプルで、児発は午前〜午後早めの稼働、放デイは放課後〜夕方の稼働で、同じ送迎車・同じスタッフ・同じ建物の稼働時間を効率的に伸ばせるためです。本記事では「定員児発10名+放デイ10名」の1拠点モデルを起点に、令和6年度報酬改定後の現行単価・稼働率・人件費・固定費を実数で積み上げ、年商と営業利益の現実的レンジを開示します。
多機能型を選ぶ経営合理性 — なぜ単機能ではダメか
単機能(児発のみ・放デイのみ)で開業する事業者は減少傾向にあります。理由は3つです。第1に建物・送迎車・管理者人件費といった固定費は同じなのに、単機能だと1日の稼働時間が4-5時間に圧縮され、固定費回収効率が悪化します。第2に児発卒業(就学)後にそのまま放デイへ移行できる「囲い込み導線」が作れないと、就学のたびに利用児童が流出します。第3に多機能型は児発管の兼務(児発+放デイの一体運用)が認められており、人件費を分担できます。
令和6年度改定後の基本報酬単価 — まず数字を押さえる
収支計算の出発点となる基本報酬は、令和6年度改定で「定員規模別」「利用障害児の状態区分(障害児支援区分)」「総合支援型/特定プログラム特化型」の3軸で再設計されました。多機能型の場合、児発・放デイそれぞれで単価が決まり、合算します。下表は定員10+10、総合支援型、平均的な利用区分での目安です(自治体・地域区分により上下します)。
| 区分 | 基本報酬(1日) | 備考 |
|---|---|---|
| 児発・定員10名以下・区分1 | 約885単位 | 主な利用児童層の標準単価 |
| 児発・定員10名以下・区分2 | 約1,015単位 | 重症度の高い児童 |
| 放デイ・定員10名以下・区分1(授業終了後) | 約604単位 | 平日放課後 |
| 放デイ・定員10名以下・区分1(休業日) | 約721単位 | 夏休み等は加算的に効く |
| 放デイ・定員10名以下・区分2 | 約721単位 / 833単位 | 区分2は平日/休業日でも上振れ |
上記は10円換算前の単位数です。実際の収入は「単位数 × 地域区分単価(東京特別区は1単位11.20円等)」で決まります。地方の8級地(10円ちょうど)と東京1級地で約12%の収入差が出ます。
稼働率3パターンの年商シミュレーション
多機能型1拠点(児発10+放デイ10)の年商を、稼働率(=実利用者数÷定員)別に試算します。営業日は児発・放デイそれぞれ250日/年(月20-22日)を仮定し、加算は児童発達支援管理責任者専任加算・福祉専門職員配置等加算・延長支援加算・家庭連携加算・処遇改善加算等を「標準的に取れる事業所」レベルで織り込みます(全加算満額算定ではありません)。
| 稼働率パターン | 実利用児童数(児発+放デイ) | 基本報酬+主要加算 年額 | 想定段階 |
|---|---|---|---|
| 立ち上げ期(50%) | 5+5名 | 約3,200万円 | 開業1年目・集客途中 |
| 標準稼働(80%) | 8+8名 | 約5,100万円 | 開業2-3年目・地域に定着 |
| 高稼働(95%超) | 10+10名+待機 | 約6,200万円 | 人気事業所・キャンセル枠補填あり |
注: 上記は基本報酬+児童発達支援管理責任者専任加算+福祉専門職員配置等加算Ⅰ+延長支援加算+家庭連携加算+処遇改善加算Ⅰ相当を含む概算です。専門的支援加算(体制+実施)・強度行動障害児支援加算・関係機関連携加算等を取りに行くと、+300〜800万円/年のレンジで上振れします。
人件費の積み上げ — 多機能型1拠点の最小チーム構成
人員配置基準を満たしつつ、安全管理と稼働を回せる最小チームは以下です。児発管は児発・放デイの兼務が可能ですが、近年は実地指導で「実態として両方の個別支援計画を主担当できているか」を厳しく見られるため、兼務でも実質1.0人分の業務量が発生する前提で組みます。
| ポジション | 人数 | 年収目安(社保込) | 年額 |
|---|---|---|---|
| 管理者(児発管兼務) | 1.0 | 550万円 | 550万円 |
| 保育士 / 児童指導員 | 3.0 | 380万円 | 1,140万円 |
| 送迎運転手(パート) | 1.5 | 180万円 | 270万円 |
| 事務 / 経理(パート兼務) | 0.5 | 150万円 | 75万円 |
| 人件費合計(年間) | 6.0(人換算) | — | 約2,035万円 |
令和6年度改定で人員配置基準は児発・放デイともに「児童指導員又は保育士を半数以上」「うち1名以上を常勤」とする原則が維持されています。多機能型でも定員ベースで配置を計算するため、児発10+放デイ10で必要職員数は「同時間帯の利用児数を満たす配置」を割り出して人員設計してください。
固定費の積み上げ — テナント・送迎車・本部費
人件費以外の固定費は事業所立地で大きく変動します。下表は東京近郊住宅地・60-80㎡テナント・送迎車2台・SaaSツール導入済みの中位帯モデルです。
| 費目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| テナント賃料(60-80㎡) | 20-30万円 | 240-360万円 |
| 送迎車2台(リース+ガソリン+保険) | 10-12万円 | 120-144万円 |
| 水道光熱費 | 4-6万円 | 48-72万円 |
| 給食委託 or 食材費 | 5-10万円 | 60-120万円 |
| 通信・SaaS(請求/勤怠/連絡帳) | 3-5万円 | 36-60万円 |
| 本部費(法人共通経費按分) | 5-10万円 | 60-120万円 |
| 固定費合計 | 47-73万円 | 約564-876万円 |
営業利益のレンジ — 標準稼働80%でどうなるか
標準稼働80%パターンでの年商5,100万円に対し、人件費2,035万円+固定費700万円(中央値)=合計2,735万円を引くと、営業利益は約2,365万円(営業利益率46%)が概算値です。ただしこの数字は「処遇改善加算の事業所配分後・人件費反映前」の構造で、処遇改善加算分(年300-500万円相当)は必ず職員へ配分する建付けのため、実質的な経営判断可能な営業利益は1,900-2,000万円程度に落ち着きます。
処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算(令和6年度から一本化)の合算は事業所収入の8-10%規模になります。これは「収入として入るが職員賃金として支払い義務がある」費目で、利益指標から除外して考えるのが実務的です。
損益分岐点 — 稼働率何%で黒字化するか
固定費(人件費+テナント等)を約2,700万円とすると、損益分岐点は年商2,700万円を超える稼働率です。1日あたり収入で逆算すると、児発+放デイで合算約11万円/日が分岐点。これは児発5名+放デイ5名前後の実稼働で達成可能なため、稼働率約50%(立ち上げ期想定)が損益分岐ラインに重なります。多機能型は単機能(児発のみで損益分岐60-65%必要)よりも分岐点が低い構造です。
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収益を押し上げる加算戦略 — 多機能型ならではの取り方
多機能型は単機能と比較して、同じ職員配置・同じ専門職で児発・放デイ双方の加算を取れる構造優位があります。特に効くのは下記です。
- 専門的支援体制加算+実施加算: OT/ST/PT/公認心理師を1名置けば児発・放デイ両方で算定可
- 事業所内相談支援加算: 児発の保護者面談を制度化、放デイにも横展開可
- 家庭連携加算: 居宅訪問・保護者面接を児発・放デイの両方で算定可
- 関係機関連携加算: 保育所・学校との連携を両事業で算定可
- 延長支援加算: 児発の午後延長・放デイの夕方延長で活用
リスクシナリオ — 多機能型で潰れるパターン
多機能型でも撤退・廃業に至る代表的パターンは3つです。(1)児発の就学卒業期に放デイへ移行できず児発側が空く(就学相談・支援級判定への伴走不足)。(2)放デイの平日稼働を「学校終了後の数時間」だけに絞ってしまい人件費効率が悪化(休業日加算・延長支援の取り込み不足)。(3)児発管の離職で個別支援計画が更新されず、人員欠如減算+加算停止のダブルパンチに陥る。いずれも「集客より定着」と「児発管の継続雇用」が経営の急所であることを示しています。
撤退ラインの判断基準 — 6ヶ月稼働50%未満は要再設計
開業から6ヶ月経過しても稼働率が50%(損益分岐相当)を下回る場合、ターゲット児童層・送迎エリア・他事業所との差別化要素・保護者からの紹介導線のいずれかに構造欠陥があります。9ヶ月目で60%、12ヶ月目で70%が標準的な立ち上げカーブで、これより遅れる場合は事業計画書の再設計を推奨します。
まとめ — 多機能型は「固定費を2事業で割る」装置
児発+放デイ多機能型は、本質的には「同じ建物・同じ送迎車・同じ児発管を2事業で共用して固定費を割り算する装置」です。稼働率80%で年商5,000-5,500万円、営業利益1,900-2,300万円というレンジが現実的な着地点で、これは単機能2拠点よりもキャッシュフロー的に有利です。一方で児発管離職・就学期の流出が構造的リスクとなるため、加算戦略と人材定着策をセットで設計することが経営の核心となります。