制度・学術

保育・教育移行支援加算 運用ガイド — インクルージョン推進と移行支援の算定実務(令和6年度改定後)

令和6年度改定の流れで再整理された「保育・教育移行支援加算」と関連するインクルージョン推進加算の算定要件、対象児童、移行先機関との連携プロセス、移行計画書・記録運用を実務目線で完全解説。併行通園→単独通園移行をどう加算化するかを児発管視点で示す。

公開: 2026-06-03読了 約10

保育・教育移行支援加算(令和6年度改定後の現行名称・運用)は、児童発達支援を利用していた児童が、保育所・幼稚園・認定こども園・学校等に移行する際の支援を評価する加算です。インクルージョン推進(障害児が地域の保育・教育環境で生活する流れ)を後押しする目的で再編されており、児発管の業務として「移行支援」が明確に位置づけられました。本稿では算定要件・運用・記録を実務目線で整理します。

本記事は令和6年度報酬改定後(令和6年4月以降)の現行制度に基づきます。地域単価(地域区分)による換算は管轄自治体の運用に従ってください。本加算の名称・要件は自治体運用で微差があるため、管轄市町村の留意事項を必ず確認してください。

保育・教育移行支援加算とは

保育・教育移行支援加算は、児童発達支援を利用している児童が、(1)児発単独通園から保育所・幼稚園との併行通園に移行する、(2)児発を卒業して保育所・幼稚園・認定こども園に完全移行する、(3)就学先(小学校通常学級・特別支援学級・特別支援学校)に移行する、といった移行プロセスで、事業所が引継ぎ支援を行った場合に算定できる加算です。

令和6年度改定後の単位数(目安)

加算区分対象シナリオ単位数(目安)算定上限
移行支援加算(初回)移行支援計画作成+初回引継ぎ会議500単位/回児童1人につき1回
移行支援加算(継続)移行後3ヶ月以内のフォロー支援200単位/月児童1人につき最大3ヶ月
インクルージョン推進加算保育所等訪問支援との併用100単位/日所定回数まで

※単位数・算定上限は令和6年度改定後の運用に基づく目安です。最終的な単位数・要件は厚生労働省告示・こども家庭庁通知・管轄自治体の運用に従ってください。

算定要件 — 移行支援計画書の作成が起点

本加算は「移行支援計画書」を事業所が作成することを起点として始まります。個別支援計画とは別建てで、移行先機関・移行時期・必要な引継ぎ事項・移行後フォロー計画を記載した専用計画書を作成し、保護者同意を取得します。

  • 【移行先の特定】保育所・幼稚園・認定こども園・小学校(通常/特支/特支学校)等の具体的な機関名
  • 【移行時期】移行予定日(入園日・入学日)
  • 【引継ぎ内容】児童の特性・支援履歴・成功した支援方法・配慮事項
  • 【移行先との連携】事前訪問・引継ぎ会議・継続フォロー計画
  • 【保護者同意】移行支援計画書への保護者署名

移行先機関との連携プロセス

移行支援は単発の引継ぎ会議で完結するものではなく、移行前→移行直後→移行後のフォローまでを含む数ヶ月のプロセスです。標準的なタイムラインは以下のとおりです。

段階タイミング主な活動
事前準備移行3〜6ヶ月前移行支援計画作成・保護者同意・移行先候補とのアポ取り
事前訪問移行2〜3ヶ月前児発管が移行先を訪問し情報共有
引継ぎ会議移行1〜2ヶ月前移行先+児発管+保護者の三者会議
移行直前移行2〜4週前体験通園・体験登校の同行支援
移行後フォロー移行後1〜3ヶ月移行先への定期訪問・電話相談・課題対応

移行支援加算と関係機関連携加算Ⅱ(就学先・就職先との連携)は要件が一部重複します。同日同一機関に対して両方算定はできないため、「どちらで算定するか」を月単位で設計してください。一般的には初回引継ぎは移行支援加算で、それ以降の連携は関係機関連携加算Ⅱで取る運用が組みやすいです。

インクルージョン推進加算との関係

インクルージョン推進加算は、児童発達支援事業所が「保育所等訪問支援」を実施し、地域の保育所等で過ごす障害児への支援を行った場合に算定できる加算です。保育・教育移行支援加算と組み合わせることで、「移行前の事前訪問」「移行後の継続支援」を加算化できます。

  • 【条件】事業所が保育所等訪問支援の指定を取得していること(児発の指定とは別の指定)
  • 【訪問先】移行先となる(または既に移行している)保育所・幼稚園・認定こども園
  • 【訪問者】保育士・児童指導員・心理職・OT・ST等(訪問支援に必要なスキルを持つ職員)
  • 【記録】訪問日時・訪問先・訪問内容・支援結果・移行先機関側の所見

個別支援計画との連動

移行支援は個別支援計画の「長期目標」として位置づけられることが多く、半年に1回の計画見直し時期に「移行を視野に入れる年齢の児童」をリストアップして移行支援計画書の作成タイミングを設計するのが運用上の定石です。年中・年長・小6・中3の児童は特に移行支援計画の対象になりやすいため、児発管の業務として年次サイクルに組み込んでください。

記録運用 — 実地指導での確認ポイント

  • 移行支援計画書(保護者同意付き)
  • 事前訪問記録(訪問日時・訪問先・対応者・協議内容)
  • 引継ぎ会議録(参加者・協議内容・合意事項)
  • 体験通園・体験登校の同行記録
  • 移行後フォロー記録(電話相談・訪問・課題対応)
  • 移行先機関からのフィードバック(口頭でも文書でも可。記録に残す)

保護者支援の観点 — 不安への寄り添い

移行期は保護者の不安が最も高まる時期です。「保育園に馴染めるだろうか」「先生は理解してくれるだろうか」「いじめにあわないだろうか」といった不安は、児発卒業のタイミングで急激に強まります。事業所内相談支援加算と組み合わせて、移行支援期間中は月1-2回の個別面談を設定し、保護者の不安に寄り添う運用が望ましいです。

移行支援は児発管の最重要業務の一つです。「移行のたびに泣き別れの儀式で終わる」のではなく、「移行先で児童が安心して過ごせる環境を作る」のがゴールです。引継ぎは口頭だけでなく、サポートブック(児童プロフィール+支援履歴+配慮事項)という形で文書化し、移行先機関に渡す運用が成果につながります。

年間収入インパクト試算

定員10名の児発事業所で、年間に3-5名の児童が保育所・幼稚園・小学校に移行する想定では、移行支援加算(初回500単位+継続200単位×3ヶ月=1,100単位/児童)×5名=5,500単位、地域単価10円換算で年間5.5万円のインパクトとなります。インクルージョン推進加算を組み合わせる場合は、保育所等訪問支援の指定取得が必要ですが、訪問頻度次第で年間10-30万円規模の上積みが可能です。

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取りこぼしを防ぐ運用フロー

  • ①年度初めに「今年度移行予定児童リスト」を児発管が作成
  • ②移行3〜6ヶ月前に移行支援計画書を保護者と作成
  • ③移行2〜3ヶ月前に移行先への事前訪問を実施
  • ④移行1〜2ヶ月前に引継ぎ会議を主催
  • ⑤移行後3ヶ月間は月次フォロー(訪問または電話)
  • ⑥フォロー期間終了時に移行先機関+保護者からフィードバックを収集

実地指導でよく指摘される論点

  • 移行支援計画書がなく、個別支援計画の長期目標欄に「移行」と一行書いてあるだけ
  • 引継ぎ会議録に協議内容の記載がなく「会議を開いた」事実のみ
  • 保護者同意書がない状態で移行先機関に個人情報を提供している
  • 移行後フォロー記録がなく、加算継続算定の根拠が見えない
  • 関係機関連携加算Ⅱとの併算定設計が不明確

インクルージョン推進の社会的意義

保育・教育移行支援は単なる加算項目ではなく、障害児が地域の保育・教育環境で過ごせるようにする「インクルージョン推進」の実装です。児発事業所が「卒業先までしっかり面倒を見る事業所」として地域で認知されることは、保護者からの信頼・他事業所との差別化・地域連携の深化につながります。加算収入はその副産物として捉え、本質的な価値は「移行先での児童の幸せ」にあることを意識した運用が、長期的な事業所ブランディングにつながります。

まとめ — 移行支援は児発管の本丸業務

令和6年度改定以降、児発管の業務として「移行支援」の位置づけが明確になりました。「療育を提供する」だけでなく「次のステージにつなぐ」までが児発の役割であり、それを加算で評価する制度設計に変わっています。事業所として移行支援を年次サイクルに組み込み、児発管の業務時間の一定割合を移行支援に充てる運用設計を推奨します。

参考・引用

  • こども家庭庁「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について」(留意事項通知)
  • 厚生労働省告示「障害児通所給付費等単位数表」(児童発達支援・放課後等デイサービス)
  • 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容(本体資料)
  • こども家庭庁「障害児通所支援事業所と保育所等の連携に係るガイドライン」
  • こども家庭庁「インクルージョン推進に関する障害児通所支援事業所向け手引き」
  • 社会保障審議会 障害者部会 報酬改定検討チーム 議事録

※ 本記事は2026年5月時点の情報に基づきます。制度・自治体の運用は変更される可能性があります。

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