制度・学術
性暴力防止法(日本版DBS)対応 — 児発・放デイの確認義務と就業制限の実務
令和6年6月成立のこども性暴力防止法(日本版DBS制度)について、児発・放デイ事業者の確認義務、対象犯罪歴の範囲、犯罪事実確認書の請求手順、就業制限規程の整備、令和8年12月の本格施行までに事業所がやるべき準備を完全解説。
こども性暴力防止法(日本版DBS制度・令和6年法律第69号)は令和6年6月に成立し、令和8年12月25日までの政令で定める日に本格施行されます。学校・保育所・児童福祉施設等の「特定事業者」には特定性犯罪事実の確認義務が課され、児発・放デイも例外ではありません。本記事では、児発・放デイ事業者が施行までに準備すべき就業制限規程・確認手順・採用フロー改修を整理します。
日本版DBSとは何か
DBS(Disclosure and Barring Service)は英国の犯罪歴開示制度に倣った仕組みで、日本では「こども性暴力防止法」として令和6年6月に成立しました。子どもに接する業務に就く者の特定性犯罪歴(過去20年〜終身)をこども家庭庁長官が確認し、事業者に通知する制度です。児発・放デイの常勤・非常勤・送迎運転手・実習生まで、児童と接する全職員が対象です。
対象となる犯罪歴の範囲(法第2条第7項)
確認対象となる「特定性犯罪」は、刑法上の強制性交等罪・強制わいせつ罪、児童福祉法上のわいせつ行為、児童買春・児童ポルノ禁止法違反、迷惑防止条例違反(痴漢・盗撮)等です。確認対象期間は、拘禁刑相当の前科は刑終了後20年、罰金刑相当は刑終了後10年、罪を犯した日から起算する罪は当該日から20年です。
| 犯罪類型 | 確認対象期間 | 備考 |
|---|---|---|
| 拘禁刑(懲役・禁錮)相当 | 刑の執行終了後20年 | 強制性交等罪・強制わいせつ罪等 |
| 罰金刑相当 | 刑の執行終了後10年 | 盗撮・痴漢の迷惑防止条例違反等 |
| 不起訴・公訴時効 | 原則として確認対象外 | 前科にあたらないため |
| 少年事件(保護処分) | 原則として確認対象外 | 少年法上の処分は前科扱いされない |
児発・放デイ事業者の義務(特定事業者・認定事業者)
こども性暴力防止法第3条・第4条は、法の適用対象を「特定事業者」「認定事業者」に分けます。学校・認可保育所・児童福祉施設等は「特定事業者」として義務適用、塾・習い事・無認可施設等は「認定事業者」として任意認定の枠組みです。指定を受けた児発・放デイは特定事業者に該当し、確認義務が課されます。
- 新規採用時の犯罪事実確認(法第8条) — 採用前または採用後速やかに
- 在職中職員の犯罪事実確認(法第8条) — 経過措置期間中に実施
- 採用前ヒアリング(法第6条) — 性的虐待・不適切な接触の有無
- 研修の実施(法第10条) — 全職員に対する性暴力防止研修(年1回以上)
- 相談・通報体制の整備(法第11条) — 児童・保護者からの相談窓口
- 内部監督・報告体制の構築(法第12条) — こども家庭庁長官への重大事案報告義務
犯罪事実確認の手順(政令で定める手続)
事業者がこども家庭庁長官に犯罪事実確認書を請求する手順は、令和7年公表の「犯罪事実確認制度の運用に関するガイドライン」で詳細化されています。本人同意ベース(法第8条第3項)で、事業者が直接請求するのではなく、本人がこども家庭庁にオンライン申請し、「該当なし証明書」または「該当あり通知」が事業者に交付されるフローです。
| 順序 | 手順 | 所要日数(目安) |
|---|---|---|
| 1 | 事業者が対象者(採用予定者・在職者)に本人申請を依頼 | 1日 |
| 2 | 対象者がこども家庭庁オンライン窓口で本人申請 | 対象者の操作次第 |
| 3 | こども家庭庁が法務省・警察庁データベース照会 | 7〜14日 |
| 4 | 対象者本人へ結果通知(郵送 or オンライン) | 14〜21日 |
| 5 | 対象者から事業者へ犯罪事実確認書を提示 | 対象者次第 |
| 6 | 事業者が記録を保管(5年)・採用判断 | 即時 |
犯罪事実確認書の取得には2〜3週間を要するため、内定から就業開始までのリードタイムを1か月以上見ておく必要があります。「来週から働いてほしい」運用は不可能になるため、採用フロー全体の見直しが必須です。
「該当あり」通知時の対応(就業制限・配置転換)
対象者に該当する性犯罪歴がある場合、事業者は「児童と1対1で接触する業務に従事させない」措置を取る義務があります(法第8条第5項)。完全な雇用拒否義務ではなく、「業務配置の見直し」が原則ですが、児発・放デイの場合は「児童と接しない業務」がほぼ存在しないため、結果として採用見送り・配置不能となるケースが大半です。
- 採用前確認の場合 — 内定取消は合法(法第8条解説、就業規則明記が前提)
- 在職者確認の場合 — 配置転換or懲戒。一方的な解雇は労働契約法上のリスクあり
- 配置転換不可能な小規模事業所 — 法的根拠による退職勧奨が認められる
- 本人不同意で確認拒否 — 採用拒否事由として正当(法第8条第3項)
就業規則・採用規程の改修ポイント
法の本格施行までに、就業規則・採用規程に以下条項を追記してください。労働条件通知書・誓約書のテンプレも同時改訂が必要です。
- 採用条件として「犯罪事実確認書の本人申請・提示への同意」を明記
- 内定段階で犯罪事実確認書の取得を条件とし、未提示は内定取消事由とする条項
- 在職者の犯罪事実確認の定期的実施(5年ごと等)を就業規則で明文化
- 「該当あり」通知時の配置転換・退職勧奨に関する条項
- 犯罪事実確認書の保管期間(5年)・廃棄手順
- 個人情報保護法上の要配慮個人情報としての安全管理措置(別途規程)
年1回の性暴力防止研修(法第10条)
こども性暴力防止法第10条は、全職員への性暴力防止研修の実施を義務化しています。虐待防止研修とは別建てで実施することが推奨されており、年1回・60分以上が目安です。
| 章 | 時間 | 内容 |
|---|---|---|
| 1. 法の概要と確認義務 | 10分 | こども性暴力防止法の枠組み・対象犯罪・確認手順 |
| 2. 性暴力の定義と類型 | 15分 | 身体的接触・非接触・グルーミング・SNS経由 |
| 3. 児発・放デイ特有のリスク | 10分 | トイレ介助・着替え・送迎時の異性介助 |
| 4. 事例ワーク(グレーゾーン判定) | 15分 | 保護者対応・職員間関係・SNS発信 |
| 5. 通報窓口と相談体制 | 7分 | 自事業所窓口・外部窓口・こども家庭庁ホットライン |
| 6. 修了確認テスト | 3分 | 対象犯罪・確認手順・通報先の3問 |
こども性暴力防止法対応はROOTS Work|研修の法定研修パックで一括対応可能。年1回の性暴力防止研修動画・就業規則改訂テンプレ・犯罪事実確認フロー図・採用面接質問集まで含めて提供。本格施行までに必要な実務をワンストップで整備できます。
令和8年12月施行までのロードマップ
令和6年6月成立・令和8年12月25日までの政令で定める日に本格施行のため、事業者の準備期間はおおむね令和8年中までです。以下スケジュールで進めれば余裕を持って対応できます。
| 時期 | 実施内容 |
|---|---|
| 令和7年度中 | 就業規則・採用規程の改訂、職員説明会 |
| 令和8年4月〜9月 | 在職者の犯罪事実確認(本人申請依頼)順次開始 |
| 令和8年10月 | 採用フロー(内定→確認→就業)の運用テスト |
| 令和8年12月 | 本格施行・新規採用全員に確認書取得 |
| 以降毎年4月 | 新人研修内に性暴力防止研修を組込み |
こども性暴力防止法は、児童福祉業界にとって採用フロー全体を組み替える大改革です。「施行直前に慌てて対応」では確実に事故が起きます。令和7年度中に就業規則を整え、令和8年度に在職者確認を粛々と進める二段構えで、施行日を迎えてください。