制度・学術
てんかん発作・救急対応 — 児発・放デイ職員が押さえる発作識別と救急要請判断
児発・放デイの現場で遭遇するてんかん発作の種類別の見分け方、安全確保の手順、救急要請を判断するライン、保護者・主治医との連携、ダイアップ坐剤の取り扱いまでを職員向けにまとめた研修教材。
児発・放デイで受け入れる児童のうち、てんかん発作の既往がある児童は決して稀ではありません。重症心身障害児だけでなく、知的障害・自閉スペクトラム症の児童にも併発例が一定数あり、活動中・送迎中の発作対応は全職員に求められる基本スキルです。本記事では、発作種別の見分け方、現場での安全確保、救急要請の判断ライン、ダイアップ坐剤の取り扱いまでを、研修教材として使える構成で整理します。
てんかん発作の基本分類
国際抗てんかん連盟(ILAE)の2017年分類では、発作を「焦点起始」「全般起始」「起始不明」の3大分類に整理しています。現場で重要なのは、医学的に厳密な診断ではなく、児童の発作パターンを観察記録し、主治医に正確に伝えることです。保護者から発作の型(欠神発作・強直間代発作など)が事前共有されている場合は、個別支援計画と緊急対応カードに明記します。
| 発作タイプ | 見え方 | 持続時間の目安 | 初動対応 |
|---|---|---|---|
| 強直間代発作 | 全身が硬直→ガクガクと震える、意識消失 | 通常1〜3分 | 安全確保、横向け、時間計測 |
| 欠神発作 | 数秒〜10秒程度のぼんやり、動作停止 | 5〜30秒 | 見守り、活動中なら一旦中断 |
| ミオクロニー発作 | 一瞬のピクッとした動き、転倒することも | 数秒 | 転倒防止、再発の観察 |
| 焦点意識保持発作 | 一部の手足の動き、感覚異常、意識あり | 数秒〜数分 | 声かけ・記録 |
| 焦点意識減損発作 | 反応が鈍くなる、自動症(口をモゴモゴ、手をいじる) | 1〜2分 | 見守り、自傷防止 |
発作中の児童に「無理に体を抑える」「口に物を入れる」「水を飲ませる」は絶対NGです。発作は脳の電気的活動の異常であり、外部から止めることはできません。やるべきは安全確保と時間計測の2つに尽きます。
現場での初動対応 5ステップ
発作を発見したら、以下の5ステップを並行して進めます。職員1名で全部やるのは不可能なので、他職員への応援要請を最初の30秒以内に出します。
- 1. 安全確保: 周囲の危険物を排除、椅子・テーブルから離す、頭の下にクッション。鋭利物・段差から遠ざける
- 2. 体位: 嘔吐物による窒息防止のため、横向き(回復体位)に。意識減損中は必ず横向け
- 3. 時間計測: スマホのストップウォッチで発作開始時刻を記録。「3分」「5分」のラインで判断が変わる
- 4. 応援要請: 他職員を呼び、保護者・主治医・救急の連絡準備を開始
- 5. 観察記録: 手足のけいれんの左右差、目の偏位、呼吸の様子、意識回復の様子、失禁の有無を記録
救急要請の判断ライン
てんかんを既往にもつ児童の通常発作は、3分以内に自然消失するのが一般的です。一方、発作が5分以上続く場合は「てんかん重積状態」と定義され、脳へのダメージ・誤嚥窒息のリスクが急上昇するため即時救急要請が必要です。判断に迷う場合は、救急要請のハードルを下げる方針(下記表)で運用します。
| 状況 | 対応 | 判断根拠 |
|---|---|---|
| 既往あり・3分以内に消失・意識回復 | 保護者連絡、活動継続可否判断 | 通常範囲内の発作 |
| 既往あり・3〜5分継続 | 救急要請の準備、ダイアップ処方児は使用判断 | 重積に移行する可能性 |
| 既往あり・5分以上継続 | 即時119番、ダイアップ処方児は使用 | てんかん重積状態 |
| 初めての発作(既往なし) | 即時119番、保護者連絡 | 原因不明の意識消失は救急対応 |
| 発作後の意識回復が悪い | 即時119番 | 重積後遺症の可能性 |
| 発作中の頭部外傷・転倒 | 即時119番 | 頭蓋内損傷の可能性 |
| 発作が反復する | 即時119番 | 群発発作・重積 |
「いつもの発作だから様子を見る」は最も危険な判断です。通常3分以内の児童でも、その日に限って5分を超えることがあります。時計を見ずに「短かった気がする」で判断するのは絶対に避け、ストップウォッチで実測してください。
ダイアップ(ジアゼパム坐剤)の取り扱い
てんかん既往児のうち、主治医からダイアップ坐剤を処方されている児童がいます。重積発作の予防または初期対応として使用するもので、保護者からの委託があり、医師の指示書がある場合に限り、職員が挿肛投与できます。法令上は医療行為に該当するため、無断使用や指示書なしの投与は厳禁です。
- 主治医の指示書(投与基準、用量、再投与のタイミング)を文書で受領
- 保護者からの依頼書(事業所での使用同意)を取得
- 保管: 室温管理、施錠保管、有効期限を月次チェック
- 使用判断: 指示書に従い「発作が○分以上継続」「同日内に○回反復」等の客観基準で判断
- 使用後: 直ちに保護者連絡、救急要請判断、使用記録(時刻・用量・効果)を作成
- 使用記録は別冊で5年間保管(医療記録扱い)
ダイアップは呼吸抑制の副作用があります。使用後は児童の呼吸数・顔色を継続観察し、呼吸停止・著しい徐脈があれば直ちに救急要請してください。「打ったから様子見」ではなく「打ったから観察強化」が正解です。
発作後の活動継続判断
発作が自然消失し、意識・運動機能が普段の水準に戻った場合、活動を継続するか早退させるかは、児童の様子と保護者の意向で判断します。一般的には、発作後30〜60分のもうろう状態(発作後もうろう)が観察されるため、その間は静かな環境で休ませ、無理な活動再開はしません。
| 状態 | 推奨対応 |
|---|---|
| 完全に普段通り、本人が活動継続を希望 | 保護者連絡のうえ活動継続可、ただし入浴・水場活動は禁止 |
| 倦怠感・眠気・もうろう状態 | 静養スペースで休ませ、保護者に早退連絡 |
| 頭痛・嘔気・繰り返す眠気 | 保護者へ早退要請、可能なら主治医受診を勧める |
| 発作の前兆症状の自覚あり(オーラ) | 休養、再発の可能性ありとして見守り強化 |
保護者・主治医・学校との連携
てんかん既往児の対応は、事業所単独で完結できません。受入時に主治医情報・処方薬・直近の発作頻度・誘発因子(発熱・睡眠不足・光刺激等)を保護者経由で確認し、個別支援計画と緊急対応カードに明記します。学齢児の場合は学校とも情報共有し、同じ対応プロトコルで動ける状態を作ります。
- 主治医からの直近診療情報(年1回更新)
- 処方薬一覧と服薬時間(事業所滞在中の服薬有無)
- ダイアップ等の頓服薬の有無と使用基準
- 直近6か月の発作頻度・持続時間・誘発因子
- 保護者・主治医・救急の連絡優先順位
- 搬送先希望病院(主治医のいる病院)
年次研修の構成例
てんかん対応研修は、全職員年1回の受講を推奨します。看護師の在籍する事業所は内部講師、不在の事業所は地域の小児神経科医や訪問看護師に依頼するのが現実的です。
| 章 | 時間 | 内容 |
|---|---|---|
| 1. てんかんの基礎知識 | 15分 | 発作分類、有病率、誘発因子 |
| 2. 発作の見分け方 | 15分 | 動画視聴で発作タイプを判定する演習 |
| 3. 初動対応 5ステップ | 15分 | 安全確保・横向け・時間計測のロールプレイ |
| 4. 救急要請の判断ライン | 10分 | 判断フローチャートの読み合わせ |
| 5. ダイアップ実技 | 15分 | 模擬挿肛、指示書の読み方 |
| 6. 自事業所児童の対応シミュレーション | 15分 | 実在児童(匿名化)のケースで判断練習 |
| 7. 修了確認テスト | 5分 | 5問記述 |
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まとめ — 「観察」と「時計」が命を守る
てんかん発作対応の本質は、「無理に止めようとしない」「時計で測る」「5分で救急」の3点に尽きます。発作中は脳が一時的に過剰興奮しているだけで、外部から介入できることは限られています。職員ができる最大の貢献は、安全な環境を確保し、正確な時間と症状を記録し、救急判断ラインを越えた瞬間に119番を押すことです。年1回の研修と緊急対応カードの整備で、全職員が同じ判断軸で動ける体制を作ってください。